こんにちは。ロキ(@rokiroki_univ)です。
今回はCBD(カンナビジオール)における医療的価値の誇張の背後にある現実について取り上げた科学論文を紹介します。
2019年後期、科学全般という広い分野において最高峰の権威を有する論文雑誌『Nature』でCBDが取り上げられました。
参考文献) Nature 2019, 572, S2-S4.
今回はこの内容を軸にわかりやすく解説し、考察していきたいと思います。
今回もCBDに関わる皆様にとって必ず知っておきたい内容が盛り込まれています。
また、CBDの医学的な研究における現代史もわかりやすく説明していきます。
CBDにおける医療的価値の誇張の背後にある現実。
大麻由来の物質であるカンナビジオール(CBD)には、以下のような矛盾する三つの解釈があります。
・価値のない違法薬物。
・てんかんの有用な処方薬であり、他の多くの疾患も治療しうる大きな可能性を秘めたもの。
・多くの支持を集めるオーガニックな栄養補助食品。
これらは確かに矛盾していますが、すべて異なる観点から真実なのです。
CBDはさまざまな症状をケアする有益な物質として宣伝されています。 しかし、CBDの一貫性のない不明瞭な法的位置づけがその調査を大きく失速させているというのです。
この事実に特に臨床研究者は頭を悩ませています。
アメリカでは日本と異なり、州の法律が優先視されます。ところが、アメリカの連邦法が合法としない限り、国の管轄する機関では違法となったり、扱ううえでの制約やリスクが生じてしまいます。
価値のない違法薬物と位置付けられたCBDに対する制約。
アメリカのニューヨークでは、CBDの臨床試験を行いたい場合は安全性を確保し、書類とライセンスを取得しなければなりません(2019年)。
カンナビノイドの一種であるCBDは、ヘロインやLSDと同様に危険な指定薬物として分類されており、現在認められている医療用途はない、とされています。
ところが、 数多くの研究により、CBDは大麻の主要な精神活性成分であるテトラヒドロカンナビノール(THC)に関連する「ハイ」な状態を引き起こさない、安全で依存性が無い物質であることが示されています。
2018年には、米国食品医薬品局(FDA)は、イギリスのGW Pharmaceuticalsが開発した精製CBD製品であるEpidiolexが小児てんかん発作の頻度を効果的に減少させると判断しました。
この承認は、CBDの薬としての可能性を信じ続けていた者たちを勇気づけることになりましたが、臨床研究者は依然として規制上の制約に直面しています。
同時に、現地の法律や医学的根拠をほとんど考慮せずにCBDを含むオイル、ローション、食品などをさまざまな健康問題の万能薬として宣伝している多くのメーカーは、CBDの医療用途支持者を不快な立場に追い込んでいるのが現状のようなのです。
医師ですら、「家族からだけでなく、患者からの要望にも対処する方法がわからない」と専門の研究所に相談するという状況です。
医療用途としてのCBDとその医学的な研究における現代史。
Epidiolexの医療用途としての画期的な承認は、以下の要素による推進があったからだと言われています。
・GW Pharmaceuticalsからの強力な投資。
・てんかんの子供を持つ家族からの熱意ある擁護。
CBDがてんかん発作を抑制する最初の手がかりは、1980年の小規模臨床試験から得られました。エルサレムのヘブライ大学の化学者であるRaphael Mechoulamが主導しました。
こうして、研究者はCBDの薬効成分の調査を開始します。
医薬品特性を調査するための多くの試験がこれに続きましたが、CBD臨床研究への早期進出を行う科学者たちは大きな弊害に直面していました。
オーストラリアのシドニー医科大学で精神疾患を専門とする精神科医であるF. Markus Lewekeは、CBDが統合失調症の精神病症状の治療に有効であることを実証したランダム化比較試験の結果を発表するのに7年間苦労したと言います。
Mechoulamの最初の仕事から40年が経過した後、大規模なランダム化比較対照試験(RCT)により、CBDが特定のてんかん性障害の子供に大きな改善をもたらすことが決定的に示されました。
これらの試験では、ドラベ症候群のすべてのけいれん発作およびレノックス・ガストー症候群の転倒発作で、プラセボよりも発作頻度が有意に減少することがわかりました。
患者の中には、発作がなくなった人もいました。
さらに、小動物および培養細胞の研究から得られた前臨床データは、パーキンソン病から慢性疼痛に及ぶ障害の治療にCBDが有効である可能性を示しました。
CBDの作用機序について。受容体とカンナビノイドシステム。
カンナビノイド受容体に対するCBDの作用メカニズムはよく知られています。※基本事項に関しては「エンドカンナビノイドシステムとは。」を参照ください。
CBDは私たちの体内に存在するカンナビノイド受容体CB1に結合できます。
ただし、THCとは異なり、CBDはCB1シグナル伝達を活性化せず、むしろTHCなどがCB1に結合するのを阻害することで活性化を抑制します。
したがって、CBDは精神作用を誘発しません。
また、CBDの作用機序は多様であり、ほかにもGPR55と呼ばれるタンパク質受容体に結合して、同様に活性化を阻害することにより、抗てんかん効果に関与するようです。
GPR55は、ニューロンの過活性化を促進することで発作の発症を引き起こす可能性があります。
さらに、CBDは、痛覚信号の伝達と炎症を媒介する受容体、および神経伝達物質セロトニンの少なくとも1つの受容体である5-HT 1A に作用します。
カナダのマギル大学の精神科医であり神経科学者でもあるGabriella Gobbiは、脳に対するCBDの生理学的効果は、うつ病の治療に使用される選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のそれと似ていることを発見しました。
彼女のチームは、5-HT 1A のCBDを介した調節が動物の神経障害性疼痛を緩和できることも発見しました。
また、CBDは内因性のカンナビノイドであるアナンダミドなどの分解を阻害して、間接的にアナンダミドなどのカンナビノイド受容体への作用を促進します。
統合失調症の精神病に対するCBDの効果。抗精神病薬との併用。
とはいえ、てんかん以外の疾患におけるCBDの薬効をサポートする臨床データは、主に小規模で一貫性のない試験設計であり、信頼性の高い試験である「ランダム化二重盲検プラセボ比較対照試験」はほとんどありません。
しかし、いくつかの疾患において、興味深い進展がなされています。 特に統合失調症の精神病はそのような有望な分野の1つです。
1995年、高用量のCBDで治療したときに症状が有意に軽減した統合失調症患者の症例が報告されました。
その後のいくつかの小規模臨床研究では、同様の効果が示唆されました。
※CBDにおいて重要なのは、その忍容性の高さです。
強い副作用で知られる抗精神病薬の分野で、CBDは既存の代替薬よりも忍容性が高いことが証明されています。
このことは重要です。なぜなら通常、臨床的有効性を得るためには高用量の試験薬を必要とするからです。
Lewekeらは、統合失調症の強力な薬剤であるアミスルプリドの効果とCBDの効果を厳密に比較しました。
両方の化合物で経時的な症状の大幅な減少が見られ、CBDは副作用の点でアミスルプリドをはるかに上回りました。
また、CBDによる治療は、内因性カンナビノイドであるアナンダミド濃度のレベルの上昇に関連しており、メカニズムのヒントを得ました。
さらに、McGuireらは、CBDが従来の抗精神病薬と併用した場合に相乗効果を発揮するということをランダム化比較試験により発見しました。
しかも、このような併用は従来の薬剤単独よりも幻覚や妄想などの症状をよりよく制御しました。
そのほか不安障害、自閉症、オピオイド依存症へのCBDの効果。
CBDは不安障害の症状の軽減に役立つことも示されています。
また、CBDが自閉症患者のいらいらや不安を有意に軽減できるかどうかの調査も進んでいます。
さらに、オピオイド依存症治療のためのCBDの有効性を調査するために、ヘロイン使用者でCBDのランダム化プラセボ比較対照試験が実施されました。
CBD投与を受けた患者は、プラセボ群と比較して薬物への渇望と不安のレベルが低かったことを報告し、有益な効果はCBDの最終投与後1週間持続しました。
オーガニックな健康補助食品としてのCBDが多くの支持を集めているという事実の裏に潜むリスク。
しかし、問題を複雑にしていることとして、CBD投与の適量範囲は、症状間だけでなく、個人間でも異なる場合があるということです。
つまり、お酒が強い人と弱い人がいるように、CBDに対する感度も個人差があるということです。
これは、消費者を対象としたCBD製品に研究者が警告する理由の1つです。
CBDは世界中のショップで入手できますが、法整備が整っていないところが多いため、市販の製剤の多くが、中毒量のTHC、重金属、農薬、およびCBD抽出プロセスに由来する有毒溶剤で汚染されていることがわかっています(2017年頃の段階)。
そのため、製品の安全性をラボテストなどによる検査で慎重に確認していかなければなりません。
CBDを取り巻く一貫性のない規制により、一般市民が自己治療的に安全性が疑わしいCBD製品を使用できるという奇妙な状況が生まれているというのです。
一方で、科学者は高品質CBDが必要な臨床試験を実施するのに苦労しています。
十分な量の医薬品グレードのCBDを入手して、強力な臨床試験を実施することはすでに困難だと言います。
そのようなCBDは非常に高価なためです。試験物質は臨床グレードの準備のための高い基準を満たす必要があります。
嗜好用の大麻が合法化されたカナダでさえ、複雑な申請プロセスが必要であり、人または動物でCBD研究を実施する政府の許可を得るためには6か月以上待たなければならないようです。
これらのような研究が行われなかった場合、または適切に行われなかった場合、残念ながら、消費者は監視の不十分な市場で自らを守らなければならなくなり、潜在的に価値のある薬の将来を危険にさらす可能性があります。
このような状況に対して、以下のように専門家は指摘します。
「データがないにもかかわらずそれが正しいと人々は確信しているとき、それは宗教になります。そして、CBDは現在、宗教的な側面があるのです。」
日本でのCBDの認識に対する三極化とそのバイアス。
日本でもこのような影響は少なからず受けており、以下のような三極化が起こっています。
・CBDは脱法ドラッグに近いものであり、試したことも調べたことも無いにも関わらず敬遠する者。
・CBDはエビデンスに基づき医療的価値のある薬であり、臨床研究を進めるべきだとする者。
・CBDは非常に有益なものであるという誇張された情報ばかりに惑わされ、裏に潜むリスクを考えない者。
しかし、日本ではアメリカとは異なり、三つ目の者より一つ目の者に偏りがあります。
つまり、大麻やそれに由来する物質はただただ医療価値もない危険な薬物であり、「ダメ、絶対。」に洗脳された者たちです。
ここにも宗教的な側面が指摘できます。なぜなら、日本の「ダメ、絶対。」は総合的に価値を判断した正しいエビデンスに基づいていないためです。
また法律の関係で大麻の研究もほとんど行われていない日本の偏った評価が、世界中の研究を総合的に判断した評価には適うわけがありません。
一方で三つ目のような有益性ばかりをうたう者たちにも問題があります。その理由は先述したアメリカでの例と同様のものになります。
重要なのは正しく引用しており、正しく議論・考察したうえでその主張を説明することができるかということです。
ここでいう正しい引用による考察とは、ただ普通に引用するだけでは正しいと言えません。バイアスを除き、偏りのない複数のエビデンスの引用をもとに相反する主張を天秤にかけ、比較することです。
宗教的な側面は無駄とは言いません。しかし、そのような側面に偏りすぎてしまうと、私たちはリスクの泥沼にはまり込んでいくことになってしまうのです。
いかがだったでしょうか。
今回はCBDの社会的側面と科学的側面、宗教的側面について前述の引用を基に取り上げました。
アメリカと異なり、日本では特に大麻やCBDに対する認識において、社会的側面と宗教的側面が大きく、科学的側面が欠けています。
これらすべてがバランスよく機能する国こそが今後の主導権を握り、国民への信頼を強めることができるようになるのでしょう。
大切なのは正しい知識を持って、向き合うことだと思っています。
さらに、CBDや大麻について詳しく知りたいという方のために、以下のリンク先で網羅的にまとめているので、参考にしてみてください。↓
【CBDについて】その特徴と歴史を徹底解説|ロキ – CBDカウンセリング|note
次回もまた一緒に勉強していきましょう。気に入っていただけたらツイッターのフォローやRTをよろしくお願いします。→ロキ(@rokiroki_univ)
ここまで見ていただきありがとうございました!
・価値のない違法薬物と位置付けられたCBDに対する制約。
・医療用途としてのCBDとその医学的な研究における現代史。
・オーガニックな健康補助食品としてのCBDが多くの支持を集めているという事実の裏に潜むリスク。
●日本でのCBDの認識に対する三極化とそのバイアス。