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CBDの沸点とべイプの温度設定について。カンナビジオールの特徴を分子構造から考える。


こんにちは。ロキ(@rokiroki_univ)です。

今回はCBD(カンナビジオール)という有機化合物の物質としての性質を取り上げ、その上でCBDべイプの温度設定とCBDの沸点との関係について解説していきたいと思います。

先日、以下のようなツイートをしました。

CBDの沸点は180℃ではありません!!※常圧において。正しくは400℃以上です。間違った情報がバンバン流れています。正直、驚愕しました。。。180℃と記載されている論文は恐らく真空状態で蒸留した時の気化した温度です。CBDは共沸という現象で吸ってます。つまり溶剤に支配されます。 

180℃という沸点に疑問を持った理由は、有機化学の研究者にしかない常識的な感覚があったからです。

この記事を読み終わった頃にはCBDへの有益な理解が深まるだけでなく、化学者の感覚があなたに身についているかもしれません。

今回の内容
●CBDベイプでの温度設定とCBDの沸点について。

●化学者から見たCBDとは何か。沸点・分子量・分子構造・扱い方など。
・CBDの構造や分子量、沸点をテルペンやオリベトールと比較してみる。
・カンナビノイドの成分分析法およびHPLCとGCの違いについて。
・有機化合物を気化させるために減圧するのは沸点が高いから。
・有機化合物の分子構造が物質の状態を左右する。

異なる意見が同時に広まると、人を混乱させます。

そこでは、ほとんど全ての人が「誤解を促すソース」を発端に巻き込まれた被害者であるとも言えるでしょう。

CBDべイプでの温度設定とCBDの沸点について。

まずCBDの沸点が180℃というのは誤っている、ということを前提にして話を進めます。※信じられない人はこれを仮定したと思ってください。

前述のように、常圧でのCBDの沸点が180℃程度といった誤った情報がネット上に流れていました。

「常圧で」というのは明記されていなくても、その情報の中には明らかに常圧での使用を前提とした説明でした。

CBDベイプを200℃あたりに加熱するのはCBDの沸点を越えるからではありません。実際にはCBDの沸点はこれをはるかに上回ります。

CBDべイプでの「加熱温度が180℃〜200℃程度が良い」というのは、主成分でもある溶剤のプロピレングリコールを含む混合液体が気化する温度に基づいたことであり、効率的にCBDを共沸により吸入できるからだといえます。

しかし、実際にはCBDの沸点を超えていないので、CBDを完全に気化させられないため、吸入しているほとんどがプロピレングリコール(沸点:188℃)でしょう。

とは言え、気化吸入の場合は拡散力が高く、少量でも効果は実感しやすいため、問題にはならないと言えます。

それに、使用している溶剤がCBDと共沸しやすい性質であれば、問題なく吸えてるはずです。

また、温度をこれ以上高くすると有毒物質が生成してしまうため危険です。

200℃を超える加熱を専用の機器以外でやったり、専門家の指導なしでやったり、実験室以外でやったりするのは絶対にやめてください。空気下での過剰な加熱は危険です。 まず酸素が大気中にあるので、発火などの危険性があります。 酸化したり、重合したりしてCBDがダメになることもあるでしょう。 有毒ガスの生成も起こりえます。一切、責任は取りかねますのでご了承ください。


温度設定を間違えているわけではなく、問題は「CBDの沸点は180℃のため、CBDを200℃まで加熱すると全て蒸発する。」と説明されていることです。

これが問題なのは単純に誤解を生むからです。これはカンナビノイド全てに言えることです。 


以下にCBDやTHCなどのカンナビノイドの沸点が奇妙に低い値で広まっていることについて疑問視しているサイトの引用を載せます。

The boiling point of THC and other cannabinoids is surprisingly unclear. The most common figure for THC is 157℃ at 760 mm Hg (atmospheric pressure). However, this seems oddly low and is contradicted by data published by the World Health Organization (2018) and the U.S. National Library of Medicine (2019), which both list it as 200℃ at 0.02 mm Hg (medium vacuum).

「THCおよび他のカンナビノイドの沸点は驚くほど不明瞭です。 THCの最も一般的な沸点の数値は760mmHg(大気圧)で157℃です。 しかし、これは奇妙に低いと思われ、世界保健機関(2018)および米国国立医学図書館(2019)によって公開されたデータと矛盾しています。どちらも0.02mmHg(中真空)で200℃と記載しています。」

引用:
https://distilling.com/distillermagazine/cannabis-the-botanical/


さらに、『High Times』にTHCの沸点に関する疑問を投げかけた記事がありました。

こちらも是非、参考にしてみてください。↓
What Is The Real Boiling Point of THC?

化学者から見たCBDとは何か。沸点・分子量・分子構造・扱い方など。

まず、CBDの物理的性質について引用したデータを以下にまとめます。

cannabidiol (CBD)

CBD
分子量314.4
沸点464℃
融点67℃
水への溶解度0.00551 mg/L 25℃

CBDの常圧での沸点が180℃であることは否定しています。沸点:464℃ (760mmHg) ※760mmHgは常圧(1013hPa)に相当します。
引用ソース)TGSC Information: http://www.thegoodscentscompany.com/data/rw1399301.html


まず、分子量や沸点、融点、溶解度ついて簡単に説明します。※わかりやすくするため、一部において厳密な定義とは少し異なる説明をしています。

分子量とは
…その分子(物質)の1つあたりの重さに対応するもので、構造が類似していれば一般的に大きいほど融点や沸点は高くなります。

沸点とは
…加熱した時にその分子が単一で完全に液体から気体に変化する時の温度であり、全てが気体になるまでその温度は沸点付近で一定となります。何も断りがなければ、常圧での温度を示すのが普通です。

融点とは
…加熱した時にその分子が単一で完全に固体から液体に変化する時の温度であり、全てが液体になるまでその温度は融点付近で一定となります。何も断りがなければ、常圧での温度を示すのが普通です。

水への溶解度とは
…ある温度において、一定容量の水に溶けるその分子の重さを示したものです。


では、CBDやTHCのようなカンナビノイドに分類される化合物の沸点が150〜200℃付近であるのは明らかにおかしいぞ?と私が感じた理由を以下に4つ示します。※ここではCBDを例に取り上げます。

1.CBDの分子量は300を超えている。

2.カンナビノイドの組成分析方法や含有量の確認方法は、GCよりもHPLCが好ましい。

3.カンナビノイドよりも軽い有機化合物でも、多くのものが強い減圧による蒸留でないと回収できない。

4.CBDの分子構造が劇的に沸点を下げるものとは思えない。

おそらくこれらが化学者の頭の中に直感的に浮かぶ疑問の種です。※なお、後述しますが、2に関しては議論の余地があります。

では、それぞれについて解説していきます。

CBDの構造や分子量、沸点をテルペンやオリベトールと比較してみる。

まず、CBDの分子量が300を超えていることについて言及します。

例えば大麻などに含まれるテルペンに分類される化合物は基本的に分子量がカンナビノイドより小さいです。

代表的なテルペンの分子量と沸点を以下に示します。

βカリオフィレン
分子量204.4
沸点257℃程度

リナロール
分子量154.3
沸点195℃程度

リモネン
分子量136.2
沸点176℃程度

引用:TGSC Information

このように構造の似ている同じテルペンで比較すると、分子量が大きいほど沸点は高くなります。

そして、CBDの分子量は314.4です。しかも構造の中にはテルペンが含まれています。つまり、上のどのテルペンよりも沸点が高くなければ奇妙なことになります。

これが、沸点180℃は低すぎると直感的に感じた理由のひとつです。

CBDの分子構造を分解
カンナビジオール (CBD)

CBDは「オリベトール」という化合物とテルペン類である「リモネン」が合体したような分子構造を有しています。

オリベトール

リモネン

オリベトールの分子量と沸点は常圧において以下のように報告されています。

オリベトール
分子量180.2
沸点313℃程度

引用:
http://www.molbase.com/supplier/722910-product-2784123.html

前述したようにリモネンの分子量は136.2で、沸点は176℃程度です。

オリベトールとリモネンの構造を持つCBDがこれらのそれぞれの沸点を顕著に上回るだろうと予想するのは自然です。すなわち313℃は超えているはずです。

カンナビノイドの成分分析法およびHPLCとGCの違いについて。

続いて分析方法についてです。

よくカンナビノイドの成分分析表にはHPLCによって分析したとあります。

一方でテルペンの分析にはGCという分析機器が使われていることがほとんどです。


実際にメーカーが提示しているカンナビノイドやテルペンの成分分析表を見てみてください。

例えばカンナプレッソさんの成分分析表を引用させてもらいます。↓

引用:https://cannapresso-japan.jp/analysis-cbdliquid-mango-10ml100mg-CoA.pdf

画像の左側のCannabinoid Test Resultsでは分析法がHPLC, QSP 5-4-4-4、右側のTerpene Test Resultsでは分析法はGC-FIDとあります。


では、なぜ分析方法が違うのか疑問に思いませんでしたか?

普通、化合物の成分分析を行う場合、可能であればHPLCではなくGCを使います。理由は分析が速く、測定も容易だからです。

では、GCとHPLCとではどう異なるのか。以下にざっくりと説明します。

GCとは
…ガスクロマトグラフィーの略で、分析対象をオーブンで気化させて分離する機器です。その気化させる温度は250℃〜300℃程度になります。

HPLCとは
…高速液体クロマトグラフィーの略で、分析対象を溶剤に溶かして溶液の状態で分離する機器です。沸点が300℃をはるかに超えるような化合物でも分析できます。

ふつうは沸点が250℃未満ならば、わざわざHPLCを使う必要はありません。

しかもテルペンでGCの分析結果をわざわざ使っているのに、カンナビノイドではHPLCの分析結果を使用しています。

このように、カンナビノイドの組成分析方法や含有量の確認方法は、GCよりもHPLCが好ましいとされるのはなぜなのか。

これは、結論を言うと、CBDの沸点が高いからという理由だけではありません。一応、GCでもCBDを検出することは可能です。


これには以下の二つの理由があると考えられます。

1.テルペンとカンナビノイドでは沸点が異なっており、カンナビノイドの方が沸点が高い。

2.加熱により成分組成が変わる。例)CBDA→CBD、その他の異性化など

大麻成分からの抽出物である場合は特に、2の根拠が大きいかもしれません。

ですが、1の理由もあると私は考えています。CBDの含有量を正確にはかるには、HPLCの方が相性がいいと言えるからです。

つまり、GCによる加熱で全てのCBDを完全に気化できているとは限りません。そうであるとすると、GC分析で検出されるCBDの量は厳密には正確ではないかもしれません。

とはいえ、大麻抽出物の分析でGCを使用しない理由に「成分中のCBDAやTHCAは、加熱により脱炭酸してしまう」ということが優先的に挙げられます。

従って、この分析方法における考察での根拠は弱いかもしれません。

しかし、カンナビノイド自体、熱による異性化や酸化などが起こりやすい物質です。そう考えるとHPLCでの分析結果は重要であり、加熱しない摂取方法はベイプで吸う方法と効果に差があると考えられます。

なお、大麻からの抽出ではなく、化学合成によりCBDを得た場合はCBDAの存在は問題になりません。※ただし、合成経路でCBDAがCBDの前駆体となる場合はCBDAの存在が問題になります。

有機化合物を気化させるために減圧するのは沸点が高いから。

次に「カンナビノイドよりも軽い多くの有機化合物でも、強い減圧による蒸留でないと回収できない」ということに関してです。

これは、有機化学などを専門に研究したことのある人でないと分からない感覚かもしれません。

分子量200付近を超えるような多くの化合物において、化合物を気化させて分離する「蒸留」を行う際には強い減圧状態で実施しなければなりません。

これは減圧状態では化合物の沸点が低下するからです。つまり低気圧では物質が蒸発しやすくなります。

以下の特許ではTHCを0.1mm Hg以下という中~高真空の状態で蒸留しています。このような強い減圧状態でもTHCは170℃以上に加熱しないと気化しないようです。
参考文献) patent/EP1133688A4/en

なかには安定に気化(蒸発)させることが難しいため、蒸留を行うのは適切でないものもあります。

これは、さらに加熱して温度を上げたとしても、化合物が気化するよりも先に分解する可能性があるためです。

また、なにかの拍子に発火する危険性もあるため安全上においても適切とは言えません。

では、どのように分子量の高い化合物を精製して回収するのかというと、一般的には液体クロマトグラフィーや再結晶といった別の方法を利用して分離回収します。


また、減圧蒸留については、例えば以下のような記述をした論文があったとします。

THCの沸点は157℃
※<0.1mmHg

これを別の研究者が「沸点は157℃」だけを誤って引用することが実際にあります。つまり、「<0.1mmHg」というのを無視してしまうということです。

このように考えると、間違った情報や誤解が広まってしまうことも納得できます。

有機化合物の分子構造が物質の状態を左右する。

最後に「CBDの分子構造が劇的に沸点を下げるものとは思えない。」ということについてです。

構造については説明するとキリがないので、かなりザックリと一部だけ解説します。


沸点を語る上で重要なのは注目している分子間同士の引き付け合う力の強さです。

以下は物質の状態変化を示した図です。※引用:ギモン雑学

液体から気体に変化するときの温度を沸点と言いますが、上図からもわかるように分子同士の繋がりが弱いほど気体になりやすい(=沸点が低い)ということになります。

この分子間の力は分子を構成する原子やそれらの結合様式によっても変わるのですが、今回はそれらを無視します。

そうすると、分子の立体構造上において、同一の分子同士が物理的に密に近づけるか否かが重要になってきます。

密に近づけると、分子同士の引き付け合う力(結束力)が強くなり、分子同士で束縛されていない状態である気体にはなりにくくなります。すなわち、沸点が高くなります。

言い換えると、引き付け合う力が強いほど熱というエネルギーを多く加えてやらないと、分子同士が一定距離以上離れた状態に対応する、流動性の高い気体になってくれません。

では、どういう時に密に近づくことができるのか。分子の形を3次元で考えてみることが大切です。

例えば、「ウォールミラー」のような形をした分子があるとします。ウォールミラー同士は重なり合うように密に近づくことができます。

一方で、「テーブル」のような形をした分子を考えてみてください。ウォールミラーと比べると、かさばる構造をしており、テーブル同士では密に重ねにくいことがわかります。

すなわち、それぞれの重さが同じだと仮定すると、ウォールミラー形の分子よりもテーブル形の分子の方が沸点が低いのです。

つまり「かさばる」分子はその分子同士が密に近づけず、その分、引き付け合う力が弱くなるため、沸点が低くなります。


このような3次元構造を考えると、カンナビノイドはそこまで分子同士が近づきづらい方ではなく、180℃になるほど劇的な沸点の低下は考えにくいのです。※この感覚は少し経験が必要です。

これは、分岐の多い構造ほど沸点が低いと説明されることもありますが、意味合いは同じです。



以上で終わりです。

いかがだったでしょうか。



カンナビノイドの沸点は150℃~200℃程度という情報はかなり広まっているように感じました。だからこそ、この情報を信頼している人が多いかもしれませんし、それが正しいとするのも自由でしょう。

しかし、私は有機化学を専門として研究に関わってきたこともあり、様々な化学の真実に触れてきました。

関わってきたと言っても、たいした成果をあげたわけではありませんが、実際の実験室で分子の合成や精製を経験してきているということは事実です。

その上で今回の疑問を考察させてもらいました。

最後に、これは批判のための記事などではなく一つの問題提起であり、化学の勉強でもあるという断りを添えて終わりにしたいと思います。


参考にしていただけたら幸いです。

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ここまで見ていただきありがとうございました!