こんにちは。ロキ(@rokiroki_univ)です。
CBDは癌の治療に効果を示す可能性が示唆されています。
ところが、抗がん剤には発がん性を示すものがあります。代表例はシクロホスファミドです。
今回は大麻の有効成分であるCBD(カンナビジオール)とCBDV(カンナビジバリン)に発がん性の可能性があるかもしれないと結論づけた最近の研究報告について取り上げたいと思います。
今回の内容は以下の通りです。
CBDの市場が世界中で拡大する中、これまで「マリファナ」というネガティブな印象を払拭するかの如く、CBDやカンナビノイドのポジティブな内容が数多く語られてきました。
しかし、重要なのは偏った情報ではなく、事実をもとに有用性とリスクについて天秤にかけて議論していくことが正しいやり方なのではないかと考えています。
これは私自身も誤魔化さず、できるだけ事実として在る情報を皆さんに誠意をもって提供したいという思いがあるからです。
まず、CBDの遺伝毒性に関する本題に入る前に、化学物質のリスク評価の基礎について先に説明しておく必要があるでしょう。
化学物質のリスク評価について。
スイスの医師、パラケルススの言葉に以下の名言があります。
「すべての化学物質は有害である。ヒトに有害であるか無害・有益であるかはその量による。」
これは当たり前のことではあるかもしれませんが、しばしば忘れがちなことです。
例えば、食塩やアルコール、カフェインはもちろん、水ですら大量に摂取すると健康被害が起こり得ます。
結局は、どんなものでも摂取量を間違えると危険です。
そのため、物質のリスク評価は以下のように表されます。
化学物質のリスク=毒性×摂取量(暴露量)
毒性はよくLD50という指標が使われます。これはラットの経口摂取で2週間に半数が死ぬ量です。
大麻(THC)はLD50においてカフェインよりも害は少なく、アスピリンと同程度となっています。
さらに大麻(THC)はイヌやサルなどの哺乳動物に対する実験では摂取量が多すぎても死なない、つまりLD50が計算できない、という結果があります。
そのため、大麻そのものも大量摂取の危険性はアルコールよりもはるかに低いと言われています。
さらに重要なのは、薬効量(効果を発揮する用量)と致死量の差が大きいほど安全性が高いということを理解しておくことです。
つまり致死量を薬効量で割った数値(致死量/薬効量)が小さいほど危険です。
例えばアルコールで酔う量が約33gで、致死量はおよそ330gというデータがあるので、致死量/薬効量という比率は10になります。
同様にこのような比率はヘロインが6、コカインやモルヒネが15、ニコチンが50、カフェイン100であるのに対し、大麻はなんと1000以上と考えられています。
CBDとCBDVは発がん性がある可能性が示唆された?
最近の研究においてCBDとCBDVが発がん性を示す可能性を示唆する結果が得られたという報告がありました。
参考文献)Arch. Toxicol. 2019, 93, 179.
CBDV、カンナビジバリンはCBDと非常に構造が類似しており、成人の抗けいれん薬として開発されています。
CBDの毒性についてはいくつかの研究が行われていますが、発がん性と遺伝毒性については著しく欠けています。さらにCBDVに関するこの手の研究は見当たりません。
CBDおよびCBDVの遺伝毒性を調査するための、ヒト由来細胞を用いた実験。
この研究における実験には肝臓由来のHep-G2細胞や上皮TR146細胞のようなヒト由来の培養細胞が用いられました。
実験結果は有糸分裂中における染色体の損傷およびDNAの損傷がCBDやCBDVの暴露により有意に増加することが確認されたというものでした。
すなわちこの研究では、CBDおよびCBDVの両方の化合物が遺伝物質に直接的な損傷を引き起こし、ヒトの健康に危険を及ぼす可能性があることを示唆しています。
また、興味深いことに、これらCBDおよびCBDVの肝臓による代謝物が元の化合物CBDおよびCBDVよりも危険である可能性を示唆する結果も得られています。
このCBDを用いた実験結果では、「ヒトに対する発癌性が認められる」というグループ1に属する物質:シクロホスファミドによって引き起こされるレベルと同様のレベルの遺伝毒性が見られたとあります。
この発がん性リスクのグループ分けは国際がん研究機関(IARC)によるものです。
ヒトに対する発癌性が認められるグループ1には、ヒ素やアスベストなどが含まれますが、実は酒などのアルコール飲料やソーセージ、ハム、ベーコンなどの加工肉なども含まれているのです。
しかもシクロホスファミドは抗がん剤であり、抗がん剤に発がん性ありという何とも言えないデータとなっています。
また、タバコの煙のような大麻の煙には、細胞のDNAを損傷して肺がん等を引き起こす危険な物質が含まれています。
このようにしてみると、発がん性が示唆される結果が得られている物質は身の回りに多くあると感じられます。
しかし、CBDやCBDVの毒性を解明するには明らかに研究が足りていないため、これらの化合物についてさらに多くの研究を追加で実施する必要があります。
そもそも実験では培地で細胞株を使用したため、生理学的条件を表すものではありません。
さらに、両方の細胞株は腫瘍に由来し、健康なヒト細胞と比較した場合でも代謝プロセスが異なる場合があります。
CBDの長期的な使用による有害作用を調査する研究は未だ不足している。
CBDに関する過去の研究では潜在的な遺伝毒性作用にもかかわらず、人の生理機能によって十分許容されることを示しました。
参考文献)Curr Drug Saf. 2011, 6, 237.
この論文は2011年に報告されたものですが、CBDに関して132の論文を精査した結果、イヌなどの動物とヒトに対してCBDは安全性が高いと結論しています。
実際に遺伝毒性に否定的な人もいます。結局は、慢性的な効果に関しては研究が不足しており、現時点ではわかっていないことが多いといえます。
なお、上の論文レビュー(Curr Drug Saf. 2011, 6, 237.)において、CBDは非形質転換細胞では非毒性であったと報告している研究もあれば、潜在的な細胞毒性や受容体活性の低下が示された研究もあったと結論しています。これらは試験管での事象なのか生体内での事象なのか、どの細胞をターゲットにしたのかなど実験条件がそれぞれ異なります。したがって、それぞれの研究を考察してつなぎ合わせるためにも、さらなるデータの蓄積が必要です。もちろん、CBDはヒトに対して忍容性が高く、高用量および中期的な使用でも安全であることを示唆している研究があったことも強調しています。
さらに以下の論文でもいくつかの研究において遺伝的毒性の証拠は見つからなかったと記されています。
参考文献)J. Toxicol. 2018, Article ID: 8143582.
私はCBDに関して、てんかんなどの病気でない限り未成年での使用はあまりおススメしませんが、服用方法によっては人の生理機能では十分許容されるものであろうと予想しています。
それに、アルコール飲料やタバコ、加工肉などを定期的に摂取している人は国際的にヒトへの発癌性が認められるものを摂取し続けていることになります。
そう考えると、人の生理機能によって十分許容されると結論付けている主張もあるようなCBDの前に、ふつうはアルコールなどに関してもっと注意喚起すべきでしょう。
また、先述したように「致死量(毒性発現量)/薬効量」という比率の指標もあります。CBDの場合はこの値は極めて大きく、効果が出る最少量での摂取では安全性が高いと言えるでしょう。
この毒性発現量/薬効量という比率を考えてもCBDなどのカンナビノイドは有益で、アルコールなどは非常に危険であると考えられます。
遺伝毒性に関しては可能性はありうるものの、否定的な意見もあり、他の物質と比べてもまだそこまで神経質になることではないのかもしれません。
今後注目すべきCBDの副作用に関する研究。
今後、特に注目すべき有害事象に関する研究は以下のものが主にあるでしょう。
・肝臓毒性、薬物代謝相互作用
・生殖能力低下などの生殖毒性
・細胞毒性、遺伝毒性
今回はこの3つうちの1つである細胞毒性、遺伝毒性について取り上げました。
副作用については、特にこれらに関して今後注目が集まります。
これらの最新情報を知っておくことで、肯定派の人は否定派の人に有害事象を突っ込まれても慌てず対応することができるでしょう。そして逆もまた然りです。
※なお、ここでは傾眠や疲労感、下痢などの一時的で軽度な副作用は挙げていません。
いかがだったでしょうか。
カンナビスをめぐる議論には否定派と肯定派がいて、しばしばどちらの主張も誤解が存在することがあります。
否定派には倫理上の問題ばかりでカンナビスの医療効果や価値をしっかり考えようとしていない人がおり、肯定派にはカンナビスは天然の植物であり有害性はほとんどないと主張する人がいます。
どちらも正解ではなく、科学的な有用性もあるし、使用には現実的なリスクも伴います。
このような議論を経て、現在の医薬品や嗜好品、健康食品、化粧品などは発展してきました。
そのことを理解して今後付き合っていくことが大切なのかもしれません。
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ここまで見ていただきありがとうございました!
●CBDとCBDVは発がん性がある可能性が示唆された?
・CBDおよびCBDVの遺伝毒性を調査するための、ヒト由来細胞を用いた実験。
・CBDの長期的な使用による有害作用を調査する研究は未だ不足している。
●今後注目すべきCBDの副作用に関する研究。