こんにちは。ロキ(@rokiroki_univ)です。
今回はパーキンソン病とは何か、そしてパーキンソン病患者にCBDがどのような恩恵をもたらしうるのかについて取り上げたいと思います。
手が震えたり動作が遅れるといった、パーキンソン病に見られるような症状が続くと日常生活に支障がでたり、生活の質(QOL)の低下につながります。
そのような症状に悩む方が実際に皆さんの身近にもいらっしゃるかもしれません。
今回の記事を読めば、CBDがどのように人間のQOLに影響を与えてくれるのかも分かってくるかもしれません。
今回、パーキンソン病に対するCBDの効果を調査した臨床試験をレビューしました。
その結果、パーキンソン病患者の精神症状や睡眠障害、QOLなどがCBDの服用によって改善されていました。
とはいえ、まだまだ研究が不足しており、CBDの効果を結論付けることはできませんでした。
では、実際にこれらの結果の根拠となる研究を詳しく見ていく前に、まずパーキンソン病について簡単に解説していきます。
なお、CBDやTHCについてあまり知らないという方は「CBDオイルとは。」をまず読んでいただければ理解が深まるかと思います。
パーキンソン病とは。その症状と特徴および治療薬について。
CBDの神経保護効果はアルツハイマー病(認知症)、パーキンソン病、ハンチントン病などの神経変性疾患に関する調査の対象となっています。
今回はこの中でもパーキンソン病について取り上げます。
パーキンソン病の症状と特徴。運動障害と非運動症状。
パーキンソン病は難治の神経障害のなかで最も患者の多い疾患です。
この疾患では運動機能障害が特徴的な症状として現れますが、非運動症状も深刻なものが多くあります。
パーキンソン病の発病の原因はまだはっきりとよく分かっていませんが、発症年齢は50〜60歳代で多く、男性よりも女性がなりやすいと言われています。
パーキンソン病の主な症状には以下の運動障害が挙げられます。
・手や足などのふるえ (振戦)
・筋肉の緊張や関節のこわばり (固縮)
・動作障害、動き出しの遅延 (寡動)
・身体が傾くと転倒しやすい状態 (姿勢反射障害)
これらにより歩行障害や動作の不自由化、コミュニケーション障害などが生じます。
また、以下の非運動症状も深刻です。
排泄障害(便秘、排尿困難、よだれ)、嗅覚低下、ジスキネジア(身体の一部が勝手に動く)、身体の痛み、睡眠障害、記憶障害、立ちくらみ、うつ、幻覚・妄想
これらは病気の経過年数によって、出現する症状が異なってきます。
CBDはパーキンソン病の新しい補助治療薬になりうる。
従来の治療薬であるドーパミン作動薬は運動障害の主な緩和治療に使用され、疾患の初期段階で特に効果的です。
ただし、パーキンソン病の進行は止められず、これらの薬物療法は症状を軽減させるその場しのぎの方法でしかありません。
また、非運動症状はドーパミン作動薬では反応せず、悪化することすらあります。
したがって、うつ病や不安症、精神病、認知症、疼痛などの非運動症状を改善できる、ドーパミン作動系システムとは異なるメカニズムを利用した治療法が必要とされています。
大麻成分のカンナビノイドの一種であるCBDは従来とは異なる複数の作用機序が示されており、パーキンソン病の新しい神経保護薬として有望視されています。
CBDのパーキンソン病患者に対する効果を調査したヒト臨床試験の研究論文。
パーキンソン病におけるCBDの臨床試験については、少数ではありますが、これまでにいくつか実施されていました。
CBDはパーキンソン病患者の精神症状を軽減しました。
2009年に、パーキンソン病患者に対するCBDの有効性を直接評価するために実施されたオープンラベルによる臨床試験の結果が報告されました。
参考文献)J. Psychopharmacol. 2009, 23, 979.
この研究では、パーキンソン病と診断され、少なくとも3ヶ月間の精神病に悩まされていた6人の患者が試験対象に選ばれました。
患者らは通常の治療に加えて、4週間の期間、1日あたり150〜400mgのCBDが投与されました。
評価には、簡単な精神症状評価スケールやパーキンソン精神病アンケートが利用されました。
結果はCBD治療で有意な精神症状の軽減が見られました。さらに、認知や運動機能に影響を与えず、悪影響は観察されませんでした。
CBDはパーキンソン病患者のレム睡眠行動障害に効果を示しました。
2014年には4人のパーキンソン病患者の睡眠障害に対するCBDの影響がまとめられ、報告されました。
参考文献)J. Clin. Pharm. Ther. 2014, 39, 564.
この症例報告では、CBDの使用により、いずれの患者でもレム睡眠行動障害の頻度が迅速かつ大幅かつ持続的に減少しました。
さらに副作用も見られなかったとのことです。
レム睡眠行動障害はレム睡眠中(浅い眠りの時)の行動抑制機構に異常が起こり、悪夢などで叫んだり暴れたりする危険な不眠症の一種です。
CBDはパーキンソン病患者のQOL(日常生活の幸福度)を改善しました。
さらに同じ年の2014年に、パーキンソン病に対するCBDのランダム化比較対照試験が報告されました。
参考文献)J. Psychopharmacol. 2014, 28, 1088.
※なお、臨床試験に関する基本事項については「てんかん治療から学ぶ薬の臨床試験とCBDオイルの効能。」を参考にしてください。
参加者はパーキンソン病に特有の運動障害があり、認知症または併存する精神症状が見られない21人の患者が選ばれました。
患者らはプラセボ、CBD75mg/day、CBD300mg/dayの3つのグループに7人ずつ割り当てられました。※プラセボとは比較のための偽薬のことで、有効成分を含みません。
結果、パーキンソン病患者の幸福と生活の質に関する評価尺度(PDQ39)において、CBD300mg/dayのグループでプラセボのグループと比較して有意に改善しました。
では、どの程度変化があったのでしょうか。この研究に関しては、これから詳しく解説していきたいと思います。
パーキンソン病に対するCBD臨床試験の概要とサンプル。
参加者は45歳以上の特発性パーキンソン病患者で、少なくとも30日間の抗パーキンソン薬の安定用量での使用が認められた者に限りました。
21人の患者はプラセボ群、CBD75群、CBD300群の3つのグループに7人ずつランダムに割り当てられました。
プラセボ群、CBD75群、CBD300群にはそれぞれプラセボ、CBD75mg/day、CBD300mg/dayがカプセルとして経口投与されました。治療期間は6週間でした。
パーキンソン病症状における治療前後の評価には、PDQ-39やUPDRSといった評価尺度が用いられました。
PDQ-39は、活動性、日常生活動作(ADL)、情緒的健康、スティグマ、社会的支援、認知、コミュニケーション、身体的不快感に関わるそれぞれの項目で構成された評価尺度です。
スティグマとは、他者や社会集団によって個人に押し付けられたネガティブなレッテルを指し、偏見的な思考です。
また、UPDRSは(1)知的活動・挙動・気分、(2)日常生活活動、(3)運動テスト、(4)合併症の4つのパートで構成された評価尺度になります。
パーキンソン病に対するCBD臨床試験の結果と考察。
6週間の治療前後における評価尺度のスコア変化の結果は以下のようになりました。※スコアが高いと病気の症状がより深刻と言えます。
評価尺度 | CBD300群[事前評価→治療後] | CBD75群[事前評価→治療後] | プラセボ群[事前評価→治療後] |
PDQ-39 | -25.6 (47.3→21.7) | -10.0 (47.1→37.1) | -6.5 (23.8→17.3) |
活動性 | -19.6 | -5.7 | -4.2 |
生活動作 | -21.4 | -16.1 | +0.7 |
情緒的健康 | -17.9 | -5.4 | -2.8 |
スティグマ | -15.2 | +4.5 | -3.1 |
社会的支援 | -6.0 | -2.4 | 0 |
認知能力 | -7.1 | -14.3 | -13.6 |
意思疎通 | -9.5 | 0 | 0 |
身体的不快感 | -23.8 | -6.0 | -13.9 |
UPDRS | -6.6 (38.9→32.3) | -3.0 (30.4→27.4) | -3.8 (40.2→36.4) |
プラセボ群と比較してCBD300群でPDQ-39(機能と幸福度の評価尺度)のスコアに有意な改善が見られました。 (p=0.03)
PDQ-39の項目の中、活動性、日常生活動作、情緒的健康の3つで用量依存的な改善の傾向が見られました。 (それぞれ p=0.11, 0.02, 0.06)
ここでの用量依存的とは、用量を増やすに従い効果が高まるというような規則性が見られることです。
例えばp=0.05であれば普段起こりうる確率が5%であることを意味し、そのようなテスト結果は偶然とは言えないということを意味します。もしもp=0.5だと普段50%の確率で起こることがテストで起こったということになり、それはテストによるものではなく偶然ではないかと疑われてしまいます。なお、実際にはp<0.05で統計的に有意な結果であるとされています。
特に日常生活動作に関してはCBD300群でプラセボ群と比較して統計的に有意な改善でした。(p=0.02)
また、スティグマについてはCBD300群でCBD75群と比較して統計的に有意な改善が見られました。(p=0.04)
CBDは抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬、鎮静剤のような特性を持つことが研究により報告されています。
したがって、情緒的健康や日常生活活動の改善はこのようなCBDの特性に関係していると言えます。
ただし、ベースラインにおけるプラセボ群のPDQ-39合計スコアが23.8と低いのはバイアスになる可能性があります。※CBD300群のベースラインにおけるPDQ-39合計スコアは47.3。
なぜならばプラセボ群でスコア低下のハードルが高くなってしまうからです。これだけ見るとかなり怪しい結果に思えます。
各項目ごとのベースラインにおける詳細なスコアは論文内に見当たらなかったため、どの項目にこのバイアスが強い可能性があるか判断できませんでした。
このことから、この研究を引用する場合は解釈にかなり注意が必要ということが分かりました。
なお、平均年齢や疾患の種類も関係しているかもしれませんが、この結果を見る限り十分な効果を得るためのCBDの用量は300mg付近かそれ以上の量であるかのように思えます。
ただし、1985年に報告された症例では、200mgにおいてジスキネジアの改善が報告されましたが、300mg以上の高用量だと症状に悪影響を与えたという結果が見られているため、用量は慎重に決定されなければなりません。
参考文献)Neurology.1985, 35, 201.
しかし、この1985年の症例報告で使用されたCBDに関しては製品の品質や他のカンナビノイドの含有量が確認できなかったため信頼性の高い情報かわかりません。
一方で、パーキンソン病症状の評価尺度であるUPDRSのスコアはグループ間で統計的に有意な差はありませんでした。
CBDは多くの部位で作用し、局所的な抗炎症作用、酸化ストレスの抑制、グリア細胞活性化の抑制、グルタミン酸ホメオスタシスの正常化といった効果によって神経保護に寄与しうると報告されています。
CBDにこのような神経保護作用の可能性が示されているにもかかわらず、UPDRSスコアではグループ間で有意な差は見つかりませんでした。
原因のひとつとして、研究に登録されたサンプルが小さすぎたため、分析の範囲が制限され、明確な結論が得られなかったということがあります。
なお、CBDの神経保護効果は動物モデルで報告されていますが、人間では簡単に測定できないため、この点に関しては評価の弊害となっています。
これらの結果から、CBDの有効性を結論付けるのは難しく、今後はより大規模な臨床試験が必要だと言えます。
いかがだったでしょうか。
今日、パーキンソン病の治療に使用されるほとんどの薬物はドーパミン作動性システムで作用し、他の神経伝達物質作動性システムの役割についてはほとんど知られていません。
そのようななか、エンドカンナビノイドシステムの活動は主にパーキンソン病の非運動症状に対する作用や神経保護効果が関係していると報告されてきているため、調査の重要なターゲットになっています。
※カンナビノイドの作用に関する基礎知識は「エンド・カンナビノイド・システムとは。」を参照ください。
今回紹介した、臨床試験はいずれも興味深い結果を示しましたが、どれもサンプル数が少なく、フォローアップ期間も短かいものでした。
そのため、効果を裏付けるには証拠が不十分だと医学委員会は2018年の発表で結論付けています。
今回、研究結果を調べてみて、CBDは神経障害に対して直接的に効果を示したというよりかは、精神症状や睡眠を改善して結果的に生活の質を向上させたという印象でした。
また、長期的なCBDの使用を調べた研究もなかったため、CBDがパーキンソン病の進行を妨げるかどうかなどについては、可能性はありますが、まだよくわかっていません。
今後はより大規模なランダム化二重盲検プラセボ比較対照試験が必要です。
参考にしていただけたら幸いです。
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ここまで見ていただきありがとうございました!
・パーキンソン病の症状と特徴。運動障害と非運動症状。
・CBDはパーキンソン病の新しい補助治療薬になりうる。
●CBDのパーキンソン病患者に対する効果を調査したヒト臨床試験の研究論文。
・CBDはパーキンソン病患者の精神症状を軽減しました。
・CBDはパーキンソン病患者のレム睡眠行動障害に効果を示しました。
・CBDはパーキンソン病患者のQOL(日常生活の幸福度)を改善しました。