こんにちは。ロキ(@rokiroki_univ)です。
世界中では発達障害に悩む多くの人たちが大麻成分であるカンナビノイド(CBDやTHCなど)の効果に期待しているということはご存知でしょうか。今回は発達障害の一種であるADHD(注意欠如・多動症)に対してCBDを利用した臨床試験を調査しました。
CBDに関する臨床試験を調査したところ、ASDの研究はいくつか報告されていたものの、ADHDの研究は見当たりませんでした。※2020年時点。
ところが、サティベックス(CBD:THC=1:1の混合製剤)をADHDの患者に用いた臨床試験(ランダム化比較対照試験: RCT)が2017年に報告されており、その内容が非常に興味深いものでした。
参考文献)Eur. Neuropsychopharmacol. 2017, 27(8), 795–808.
今回はこの研究の内容をベースにお話していきたいと思います。
※なお、ASDへのCBDの効果に関しては過去の記事「自閉症スペクトラム【ASD】に対するCBDの効果。」を参照ください。また、CBDやTHCについてあまり知らないという方は「CBDオイルとは。」をまず読んでいただければ理解が深まるかと思います。
発達障害の一種であるADHD(注意欠如・多動症)とは。
注意欠如/多動性障害(ADHD:Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)は、一般的に感情の調節不全や認知の障害を伴った不注意や多動・衝動といった症状によって特徴づけられます。
例えば以下のような症状です。
・注意欠如:ケアレスミスが多い、注意力が持続できない、作業中でも別のことに気を取られるなど。
・多動/衝動:落ち着かない、他人の話に割り込んでしまう、じっとしていられないなど。
ADHDは脳の機能異常によっておこる発達障害の一種であるため、上記のような症状を意識的に抑えるためには異常な精神的努力が必要で制御困難となっています。つまり医学的には、しつけや本人の性格の問題ではないとされています。
医療専門家によって大麻がADHDの治療薬になりうると指摘されている。
また、ADHDの人に共通して問題視されていることの一つは併発しうる薬物依存です。
ADHDにおいて薬物依存のリスクが高まる理由には自己治療を目的とした使用のためということが挙げられます。このことによって、睡眠薬や覚せい剤、大麻などの乱用が問題となりましたが、一部の薬物はADHDにおいて推奨される治療薬として報告されているものもありました。
なかでも、大麻成分であるカンナビノイドの効果を調査・研究することはADHDを支持する全く新しい作用機序の発見や新しい治療方法の開発に繋がりうるという意味でも重要です。
ADHDにおいては覚醒剤やアトモキセチンなどの薬物療法が既にありますが、効果的でない場合もあり、十分な忍容性があるとも言い切れません。いくつかの事例ではより深刻な副作用が報告されており、米国食品医薬品局(FDA)が心血管への影響、成長抑制、精神疾患の発症のリスクを伴う可能性があるという警告を示しています。
また、ヘロインなどと同様のオピオイド系の薬物は実際の医療の場で使用されていますが、その副作用による健康被害は計り知れません。そのような中、比較的に安全性の高い大麻がオピオイド薬の代替薬として期待されています。
これら薬物の有用性は科学的なエビデンスに基づくものです。一方で、こういった物質の規制などは政治・経済の視点に基づき行われてきたもので科学的なエビデンスは十分に考慮されていません。
ADHDに対するCBDおよびTHCの効果を調査した臨床試験。
ADHDの成人に対して大麻の使用が有益であるということが臨床試験で報告されていますが、カンナビノイドがADHDに治療効果を示す作用機序はサティベックス(Sativex)による臨床試験が報告された2017年時点でも良く分かっていません。
ADHDに対する大麻の効能に関心が集められ、一部の臨床医によってADHD治療に大麻の処方が推奨されているにも関わらず、ADHDに対するカンナビノイドの調査試験は最近まで行われていませんでした。
そこで、ADHDに対するカンナビノイドにおける薬物投与の試験が実施されることになりました。
参考文献)Eur. Neuropsychopharmacol. 2017, 27(8), 795–808.
ADHDに対するカンナビノイド臨床試験の概要と用量設定。
今回報告された臨床試験はランダム化二重盲検プラセボ比較対照試験であり、サティベックス(THC:CBD=1:1の口腔粘膜スプレー)を用いて6週間の治療期間で実施されました。ADHDと診断された30人の成人はサティベックスが投与されるグループ(=サティベックス群)とプラセボが投与されるグループ(=プラセボ群)に15人ずつランダムで割り振られました。(※サティベックス:THC2.7mg, CBD2.5mg / 1 spray)
最初の2週間は適切な投与量を見つけるための用量の漸増・調節期間で、その後、最適化した投与量を4週間維持して服用し続けました。
最終的には1日当たりサティベックス群で平均値4.7 spray (範囲1-13 spray)、プラセボ群で平均値8.5 spray (範囲2.1-14 spray)の摂取量となり、プラセボ群で有意に多く摂取したがる傾向が見られました(p=0.02: ※統計学的に意味のある数値)。これはプラセボ群で効果の実感が少なかったことに起因していると推測できます。なお、サティベックス4.7 sprayはTHC12.7mg, CBD11.8mgに相当します。
※試験後にはフィードバックの結果、1日当たり最大8 sprayまで、適量を3-5 spray程度とするのが適切だったのではないかと考察しています。
ADHDに対するカンナビノイド臨床試験のテスト結果。
今回の臨床試験で、認知能力と活動レベル、ADHDに特徴的な挙動、情緒不安定症状への影響が調査されました。事前評価は治療期間前のベースラインの際に行われ、治療後評価は治療期間終了時の6週間後に行われました。
認知能力と活動レベルに関してはQbテスト(定量的行動テスト)ではかられ、統計的に有意なほどの違いとは言えませんが、プラセボ群と比較してサティベックス群でより改善が見られました。
Qbテストの指標となるQbスコアは以下のQb Inattention、Qb Impulsivity、Qb Activityの3つのデータの結果から求められました。※Qbテストは素早い要求に対する応答の速度や正確性、様子を観察する試験です。
●認知能力テスト
Qb Inattention:
・Qb OE(Omission Error)…見落としによるエラー[応答するべき際に反応しない](不注意)
・Qb RTV(Reaction Time Variability)…応答時間のばらつき
Qb Impulsivity:
・Qb CE(Comission Error)…要求に対するエラー[求められていない応答をする](衝動性)
●テスト中の活動レベル
Qb Activity:
・Qb Activity…頭部の動き(多動性)
求められていない応答をするか否かの衝動性をみるQb CE(Commission Error)という項目についてはサティベックス群で統計的に有意な改善が見られました。そのほかの項目(Qb Activity, Qb RTV)に関しては、統計的には弱い結果でしたが、プラセボ群と比較してサティベックス群で改善の傾向が見られました。
しかし、有意な改善があったQb CEに関しては治験前のベースラインの時点でサティベックス群のスコアがプラセボ群に比べてかなり高かったため(つまり、衝動性の高い人がサティベックス群に多かったため)、有意な改善が過大評価されている可能性があります。
注目すべきなのは、ネガティブな結果が全くなかったという点です。サティベックスがADHDの認知行動に悪影響を全く及ぼさなかったというのは驚くべき結果かもしれません。
一般的に大麻の使用は認知機能障害と関連付けらます。THCのみでは認知行動への悪影響が実際に見られています。サティベックスではCBDがTHCによる認知機能への影響を抑制することが研究により示されており、このことが悪影響が見られなかった理由であると考えられます。
ただし、長期投与による影響はまだわかりません。その点に関しては今後さらなる調査が必要になるでしょう。また、ネガティブな結果が全くなかったのは認知能力に関してのQbテストの精度が低かった可能性も否めません。
なお、THCの割合が少ないほど、認知障害に関する懸念が緩和されると考えられます。CBDのADHD患者に対する効果を考えるうえでも非常に興味深い研究です。
さらに、ADHDの挙動や情緒不安定症状についてはコナーズらによる評価尺度などが利用されました。これら、ADHDの挙動における多動性/衝動性(CW Hyp/Imp)や不注意(CW Inattention)、および情緒不安(CNS-LS、ALS)に関するスコア変化は、今回は深く取り上げませんが、いずれもサティベックス群でより良い結果が得られています。(※note記事「【CBDの効果】論文によるエビデンスをもとに精神疾患への効果を解説」で詳細に取り上げています。)
研究の結果をまとめた表を以下に示しておきます。興味のある方は表を見て考察してみてください。
評価尺度 | Sativex群[事前評価→治療後評価] | プラセボ群[事前評価→治療後評価] | p |
Qbスコア | 1.73 → 1.32 ( -0.41) | 1.71 → 1.46 ( -0.25) | 0.16 |
Qb RTV (ms) | 210.8 → 172.0 (-38.8) | 198.0 → 172.0 (-26.0) | 0.24 |
Qb CE (%) | 1.90 → 1.30 (-0.60) | 1.36 → 2.19 (+0.83) | 0.05 |
Qb Activity | 2.66 → 2.13 (-0.53) | 2.61 → 2.43 (-0.18) | 0.24 |
CW Inattention | 27.27 → 17.60 (-9.67) | 27.33 → 21.92 (-5.41) | 0.10 |
CW Hyp/Imp | 19.40 → 10.20 (-9.20) | 19.00 → 13.85 (-5.15) | 0.03 |
CNS-LS | 30.67 → 20.13 (-10.54) | 30.20 → 27.92 (-2.28) | 0.11 |
ALS | 22.33 → 15.40 (-6.93) | 22.20 → 21.38 (-0.82) | 0.19 |
ADHDに対するカンナビノイド臨床試験結果から分かること。
いかがだったでしょうか。
今回の試験にある認知能力やADHDの挙動の改善に関しては、既存治療薬である医療用覚醒剤によるRCT(ランダム化比較対照試験)の結果に類似していたようです。このことは大麻成分の医療的価値を支持する結果になると言えるかもしれません。
また、認知挙動へのネガティブな結果がなかったということは、ADHDの人が個々で自己治療として大麻を利用するという傾向を裏付けているのかもしれません。
発達障害や精神障害に対するCBDなどのカンナビノイドの研究はいまだ発展途上ですが、やはり安全性の高いCBDは特に有望な選択肢として挙げられると思うので、THCの含有比率が低いCBDオイルの効果について調査されることを期待しています。
「CBDと発達障害」における、より詳細なレビューや解説、また、その他のCBDの効果・作用に関するまとめなどについては、以下の記事で網羅的にまとめました。さらに詳しくCBDについて知りたい方には必見の内容となっているので、参照していただけたら幸いです。(※前編と後編に分かれていて書籍並みのボリュームになっていますが、無料公開している最初のまとめ部分だけでも有益な内容になっているかと思いますので、是非のぞいてみてください。)
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ここまで見ていただきありがとうございました!
●医療専門家によって大麻がADHDの治療薬になりうると指摘されている。
●ADHDに対するCBDおよびTHCの効果を調査した臨床試験。