こんにちは。ロキ(@rokiroki_univ)です。
今回は、CBDが統合失調症患者にどのような影響をもたらすのかを調査するために、これまでのヒトに対する臨床試験や研究をレビューしました。
もしもあなたが、周りがみんな敵だと感じたり、悪口を言われている気がして不快な気持ちになったことがある場合、今回の記事で、このような身近な症状との向き合い方を理解できるようになるかと思います。そのためにはまず統合失調症について知ることから始める必要があります。
まず結論から言いますと、CBDは統合失調症の妄想・幻聴・幻覚などの陽性症状だけでなく、意欲低下などの陰性症状も治療する薬になりうる潜在的な可能性がみられました。
では、その根拠となるCBDの研究論文を見ていく前に、まず統合失調症とその代表的な治療薬である抗精神病薬について基本的なこと見ていきましょう。
なお、CBDやTHCについてあまり知らないという方は「CBDオイルとは。」をまず読んでいただければ理解が深まるかと思います。
統合失調症とは。その症状と特徴および治療薬について。
統合失調症は精神医療の現場でよくみられる病気と言われており、脳機能の障害により異常な行動や思考が現れます。
特徴としては主に以下の三つの症状が挙げられます。
・陽性症状:妄想、幻聴、幻覚
・陰性症状:意欲低下、感情の平坦化、引きこもり
・認知機能障害:注意・判断力の低下、思考障害
※認知機能障害を陽性症状に加えて、陽性症状と陰性症状の二つの症状にまとめる場合もあります。
特徴として、初期(急性期)には陽性症状や認知機能障害の激しい症状が現れます。その後、消耗期を経て、陽性症状が落ち着いた頃に陰性症状が主にみられるようになります(慢性期)。
統合失調症の陽性症状と陰性症状に対する治療薬は異なる?
陽性症状に対する対応は比較的簡単で、興奮を抑えたり、不安を和らげたり、落ち着かせたりする薬で症状を軽減できると言われています。
一方で陰性症状に対する治療は難しいと言われています。陰性症状に効果があると言われているのは一般的に覚醒剤のような作用薬であり、処方できるような医療が整った国や地域は限られています。実際に、このような気分を向上させる薬物は、種類によっては医学的に有益であるというエビデンスがあるにもかかわらず、政治的な理由により禁止されている場合が多いのが現状です。
統合失調症の治療薬の作用と効かない時の特徴。
統合失調症の薬としてまず処方されるのは抗精神病薬です。
抗精神病薬の多くは脳内のドーパミンD2受容体の拮抗薬として作用することでドーパミン機能を低下させます。このような作用を持つ抗精神病薬は多くの患者に効果が認められますが、治療反応が貧弱な患者もかなりいます。
抗精神病薬は、有益な効果が主に陽性症状に対するもので、陰性症状と認知障害に対しては比較的影響を与えません。これは、陽性症状とは対照的に、統合失調症の陰性症状はドーパミン機能の上昇によっては引き起こされないためかもしれません。
一方で、セロトニン受容体5HT1Aや5HT2Aへの作用が抗精神病薬の副作用や陰性症状を低減・改善するメカニズムに関係しているかもしれないと考えられています。
CBDは従来とは異なる作用機序を示す統合失調症の新薬になりうる。
大麻に含まれる主要なカンナビノイドは、デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)です。※カンナビノイドは大麻の最重要成分で、生理活性物質の一種です。
THCは「ハイ」になる向精神作用を持つ生理活性物質で、厳しく規制されています。
一方でCBDはTHCの「ハイ」になるような向精神作用を抑制する働きをもち、安全性の高いカンナビノイドとして注目されています。
大麻使用後の精神病症状および認知機能障害のリスクは、CBD含有量が比較的高い大麻製剤を使用すると低くなります。また、健康なボランティアでは、THCによる精神病症状の誘発と認知能力に対するTHCの悪影響の両方がCBDの事前投与によって軽減されています。
CBDの作用機序は複雑で、未解明の部分が多いですが、抗精神病薬のようなドーパミン受容体への直接拮抗作用は関与していないようです。一方で、CBDはセロトニン受容体5HT1Aに関与しており、内因性カンナビノイドの分解を阻害してカンナビノイド受容体を刺激します。また、CBDは他の受容体への関与も示されています。
このことは、CBDがこれまでとは異なる作用機序を示す新しい精神病治療薬となる可能性を示唆しています。
なお、内因性カンナビノイドなど、カンナビノイドの作用に関する基礎知識は「エンド・カンナビノイド・システムとは。」を参照ください。
CBDの統合失調症に対する効果を調査した臨床試験の論文をレビュー。
1995年に報告された最初の症例研究報告では、1500 mgのCBDを26日間投与すると治療抵抗性統合失調症に有益であることを示しました。
参考文献)J. Clin. Psychiatry. 1995, 56(10), 485.
CBDは抗精神病薬と同程度に統合失調症を改善したにも関わらず、副作用で有益な結果をもたらしました。
さらに2012年には、主に急性の妄想性統合失調症症状が認められた患者42人を対象に、4週間にわたる600~800mgの経口CBD投与と抗精神病薬アミスルプリドの投与の比較試験が報告されました。
参考文献)Transl. Psychiatry 2012, 2(3), e94.
4週間の治療後、両薬剤とも統合失調症の症状スコアに改善がみられましたが、CBDで顕著に副作用が少なくなっていました。さらに興味深いのは、うつや無気力、意欲低下などの陰性症状の評価において、抗精神病薬であるアミスルプリドと比較してCBDが症状スコアを1.5倍程度軽減していたという点です。もともと統合失調症における薬物療法による陰性症状の軽減は難しく、現代の課題でもありました。CBD群の平均体重は82kgであったため、7.3~9.8mg/kgのCBD投与量でした。※平均年齢は30歳。
統合失調症の評価尺度であるPANSSスコア(統合失調症の陽性および陰性症候群スケール)の詳細を下表に示します。スコアの低下は症状の改善を示します。
評価尺度 | CBD群[事前評価→治療後評価] | アミスルプリド群[事前評価→治療後評価] |
PANSS合計 | 91.2→61.7 (-29.5) | 95.5→67.0 (-28.5) |
PANSS陽性 | 24.6→16.4 (-8.2) | 22.5→13.8 (-8.7) |
PANSS陰性 | 23.7→15.0 (-8.7) | 25,3→19.5 (-5.8) |
PANSS一般 | 42.9→30.0 (-12.9) | 47.7→33.8 (-13.9) |
CBDは統合失調症の治療の安全な補助薬として有効でした。
2018年には統合失調症の補助療法としてのCBDの安全性と有効性を調査するためのランダム化二重盲検プラセボ比較対照試験が実施されました。
参考文献)Am. J. Psychiatry 2018, 175(3), 225.
これは統合失調症における最初のCBDのプラセボ比較対照試験だと筆者は述べています。※プラセボとは比較のための偽薬のことで、有効成分を含みません。この臨床試験では、抗精神病薬に部分的に反応していた88人の患者に、CBD 1000mg/dayまたはプラセボのいずれかを追加治療として6週間投与しました。陽性および陰性の精神病症状(PANSS)、認知能力(BACS)、機能レベル(GAF)、治療中の全体的な臨床印象(CGI-IおよびCGI-S)に対するCBDの影響が評価されました。
統合失調症に対するCBD臨床試験の概要とサンプル。
被験者の年齢の平均は41歳で、平均体重が84kg(CBD群)、BMIの平均が28でした。つまり一日当たりのCBD服用量は12mg/kgと言い換えることもできます。※1000÷84≒12
また、以前に抗精神病薬への少なくとも部分的な応答を示したこと(すなわち、治療抵抗性の病気ではなかったこと)と少なくとも4週間安定した用量の抗精神病薬を受けていたことが必要で、この治療は試験期間中も変わらず継続されました。なお、患者一人につき併用している薬は一種類の抗精神病薬のみでした。
患者はおよそ1:1の比率でCBD群とプラセボ群にランダムで割り当てられ、CBD群ではCBD 1000mg/day(一日当たり100 mg / mL経口溶液10 mL)を、プラセボ群ではプラセボ(賦形剤のみ)を朝と夜の2回に分けて投与されました。
統合失調症に対するCBD臨床試験の結果。
PANSS合計スコア(陽性スコア+陰性スコア+一般スコア)が20%以上改善した患者数の割合はプラセボ群よりもCBD群で高かった(p=0.09)のですが、その人数は多くはなく、それぞれCBD群で12人(29%)、プラセボ群で6人(14%)でした。陽性スコアのみでは同様の改善傾向がCBD群でより顕著でした(p=0.06)。※p値は小さいほど統計的に信頼性が高く、p<0.05で統計的に有意な結果であるとされています。
結果は下表に示します。
評価尺度 | CBD群[事前評価→治療後評価] | プラセボ群[事前評価→治療後評価] | p値 |
PANSS合計 | 79.3→68.1 (-11.2) | 80.6→71.9 (-8.8) | 0.13 |
PANSS陽性 | 18.0→14.8 (-3.2) | 17.5→15.7 (-1.7) | 0.02 |
PANSS陰性 | 22.6→19.9 (-2.7) | 23.4→20.5 (-2.9) | 0.97 |
PANSS一般 | 38.7→33.4 (-5.3) | 39.7→35.6 (-4.1) | 0.20 |
SANS | 52.8→43.6 (-9.1) | 55.3→48.4 (-6.3) | 0.12 |
臨床の全体的な印象の改善度合をはかるCGI-Iでは、CBD群でプラセボ群と比較して有意に改善した患者の割合が高くなりました(p<0.05)。また、臨床の全体的な印象の重症度合をはかるCGI-Sでは、CBD群でプラセボ群と比較して有意に重症度の患者の割合が低くなりました(p<0.05)。
さらに、機能レベルをはかるGAFスコアでも認知パフォーマンスをはかるBACSスコアでもCBD群でプラセボ群と比較して改善の傾向が見られました(それぞれp=0.08、p=0.07)。
統合失調症に対するCBD臨床試験で報告された副作用。
主な有害事象・副作用は、以下の表の通りでした。いずれも軽度で一時的なものでした。
有害事象 | CBD群 | プラセボ群 |
胃腸障害 | 8人 (19%) | 3人 (7%) |
下痢 | 4人 (9%) | 2人 (4%) |
吐き気 | 3人 (7%) | 0人 (0%) |
神経系障害 | 2人 (5%) | 4人 (9%) |
頭痛 | 2人 (5%) | 2人 (4%) |
傾眠 | 0人 (0%) | 3人 (7%) |
精神障害 | 1人 (2%) | 3人 (7%) |
有害事象についてはCBD群とプラセボ群で有意な差はありませんでした。すなわち、CBDは良好な忍容性を示しています。
特徴的なのは消化管に関わる軽度の副作用(胃腸障害、下痢、吐き気)がCBD群で明らかに多かったということです。なお、神経系障害や精神障害、傾眠に関してはプラセボ群に多く見られました。
統合失調症に対するCBD臨床試験の結果の要約。
CBDを抗精神病薬の追加の補助薬として使用したこの臨床試験では、すでに適切な用量での抗精神病薬の治療があったため、スコアへの影響は全体的に控えめでしたが、統計的に意味のある改善が見られました。これは、従来の抗精神病薬治療の効果を上回ったと言えます。
また、これらの結果は、統合失調症やパーキンソン病における精神病症状およびTHC誘発性精神病症状をCBDが軽減したという過去に報告された研究結果とつじつまが合います。
さらに、認知パフォーマンスの全体的な改善の傾向はCBDが認知に有益な影響を与える可能性を示しました。
CBDは統合失調症に有意な改善をもたらさなかったという研究論文について。
これまで紹介した研究はCBDの有益な効果を支持するものでしたが、最近のランダム化プラセボ比較対照試験では600mg/日のCBD投与においてプラセボと比較して有意な改善が見られなかったと報告しました。
参考文献)Psychopharmacology 2018, 235, 1923.
この研究では慢性統合失調症の36人の患者を対象とした6週間の治療において、プラセボ群とCBD群の両方で PANSSスコアが改善されたことが明らかになりましたが、プラセボとの比較ではCBDによる有意な改善は認められませんでした。なお、CBDの忍容性は良好でした。
ところがこの臨床研究には問題が多く、その前に紹介したCBD群で統合失調症症状が有意に改善した臨床試験よりも解釈に注意が必要です。
その理由はいくつかあります。まず、この研究での対象患者は、あらゆる治療を尽くした長年診察を受けていた慢性の統合失調症患者であり、安定した抗精神病薬治療患者であったということです。さらに、この研究ではプラセボ群で明らかに多くの気分安定薬や複数の抗精神病薬を使用していました。他にも、治療前の患者の状態におけるCBD群とプラセボ群の差や用量設定などが問題点として挙げられます。(※詳しくは、note記事「【CBDの効果】論文によるエビデンスをもとに精神疾患への効果を解説」で解説しています。)
これらのことから、公平に精査した結果、より信頼性が高いのは有益な効果を支持したほうの研究だと結論づけています。
いかがだったでしょうか。
CBDは従来の抗精神病薬とは異なる作用機序で働くため、統合失調症などの精神病に対する新しい治療薬になる可能性を秘めています。しかし、臨床的な有効性を裏付けるためにはさらに大規模な臨床試験での調査が必要になるでしょう。今後の研究の進展に注目です。
「CBDと統合失調症」における、より詳細なレビューや解説、また、その他のCBDの効果・作用に関するまとめなどについては、以下の記事で網羅的にまとめました。さらに詳しくCBDについて知りたい方には必見の内容となっているので、参照していただけたら幸いです。(※前編と後編に分かれていて書籍並みのボリュームになっていますが、無料公開している最初のまとめ部分だけでも有益な内容になっているかと思いますので、是非のぞいてみてください。)
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ここまで見ていただきありがとうございました!
●CBDは従来とは異なる作用機序を示す統合失調症の新薬になりうる。
●CBDの統合失調症に対する効果を調査した臨床試験の論文をレビュー。